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春休みはさすがに、一日中練習できる分、朝はいつもほど早くはない。
たまたま早く目が覚めたからだったか、それとも何となく予感でもあったのか――、ともかく何故そんな気になったのか分からないけれど、集合時間よりも二時間近くも早く学校に着くような時間に家を出た。
まだ肌寒い朝の空気は自転車を全速力で漕げば容赦なく顔や手を叩いていくけれど、それでも、漕ぐにつれ上がって行く体温が、ついこの間までとは違って確実に、もうじきオレの大好きな、あたたかい季節が来るのだと教えてくれる。
学校の敷地内にある駐輪所には寄らず、まっすぐグラウンドに向かう。
当然誰も居るはずもなく、けれど体に染み付いた習慣で挨拶を口にしながらフェンスを押し開けて――一瞬目の前の光景に息を呑んだ。
まだ薄暗く霞むマウンド上に、三橋が居た。
ぼんやり――と言うにはあまりにも真っ直ぐな目で、遠くを見つめるように明るくなっていく空を仰ぐその姿は、春の匂いを含んだ朝もやに掻き消されそうなほど淡く、けれど冷たい空気に凛と冴え、まるで絵でも見ているような気にさせられた。
それは――、一年前にオレが息を呑んだ景色と重なる。
「阿部君?」
オレに気付いた三橋が一瞬驚いたように目を開いて、それからその目がオレの名を呼ぶと同時にふわりと細められる。
「お前、いつもこんなに早く来てんの?」
声をかけながら近付くオレに、ううん、たまたま――と笑って見せ、三橋はまた朝陽の昇ろうとする空を仰いだ。
あ、やっぱ違う、と思う。
一年前に見た景色と重なるようでいて、やっぱり少し違う。
あのときと違って、三橋が穏やかだ。
三橋の視線の先を追うように、オレも空を仰ぎ見た。
入学式後の顔合わせからホンの数日しか経っていなかった頃だと思うけど、実際もっと後だったか、それとももっと前だったか、良くは覚えてない。
けど、オレがまだ、三橋に対しても投手というものに対しても、横暴な偏見を持っていた頃だってことは、間違いない。
校舎から随分と離れたグラウンドに辿り着きフェンスに手をかけようとして、少し離れた場所に居る三橋に気が付いた。
「三橋?」
オレの声にビクリと身を竦ませ、あからさまにキョロキョロと落ち着きなく視線を彷徨わせるから、当然だがイラっとする。
「――なにやってんの?」
「あ…べくん、あの――」
「入んねぇの?」
「入るっ」
そう答えはしてもモタモタと挙動不審な動きを繰り返す三橋を待つことはせず、さっさとグラウンドに足を踏み入れる。
慌てるように後に付いて来た三橋の気配を感じながらグラウンド内にいつも通りの挨拶を投げると、先に来ていた一組と九組の連中が、ちわっ、とか、おーお疲れ、とか、おっすー、とか、口々に挨拶を返してくれる。
肩にかけたカバンを担ぎ直しながら何の気なしに振り返って、オレは思わず眉を寄せた。
三橋が、入り口で、きょとんと目を見開いて固まっていた。
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短い話なのでサンプルは短めで。
表紙は表をあくつさん、私が裏を描きました。
コピー誌なのでピンクがまったく上手く映らなくて、本は白っぽい表紙になってしまっているのが残念です><
あくつさんから回ってきた表紙絵が美人さんの綺麗な三橋だったので、裏表紙は見開きで見れば阿部が三橋を意識してる感じで描いてみました(笑)
本文も、漫画も小説も両方ともそんな感じの仕上がりです。
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