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高校に入って――、何故だか同級生になっていた浜田にタメ口で話しかけることには、違和感はなかった。
もともと子供の頃からの友達だ。
中学に入って先輩後輩の関係になっても、部活中でこそ敬語で話したけれど、休みの日や練習後互いの家に遊びに行けば、いつもタメ口で話していた。
「いーずみ」
呼ばれて振り返りたくとも振り返れない状態で、オレはとりあえず声のするほうにちょっとだけ頭を向けた。
「手伝うよ」
「おー。さんきゅー」
すぐに視界の中に入り込んできた浜田が相変わらずニコニコと愛想の良い顔で手を差し伸べてくれた。
四時限目に使った人体模型を理科準備室に運ばなければならず、オレは何処をどう持って抱え上げれば一番楽に運べるかと、自分の身長より背の高い骸骨にしがみついては四苦八苦していた。
こんなもの使うんだったら授業を理科室でやればいいのにとか、大体なんでこんな日に限って日直の相方は休みなんだよとか、言いたいことは山程あるけれど、言ったところでどう仕様も無いことだから、黙って骸骨の肩を抱き上げた。
「泉足持ってよ。オレが頭持つから」
「ん、助かる」
「いえいえ。泉が骸骨と抱き合ってんの見るのが面白くないだけですから」
「なんじゃそりゃ」
「へへ」
楽しそうに笑って骸骨の肩をヒョイと持ち上げる浜田を横目で見て、オレは足を両手で抱え上げた。
言いたい言葉は、飲み込んだ。
オレが骸骨と抱き合って、なんで浜田が面白くないんだとか。
そんなことを、問いただしてみたいとも、正直思う。
けれど、聞きたくないとも、思う。
幼馴染で、元先輩で、今は同級生で――。
そんな今の関係が、とても微妙で薄っぺらなトタンの板の上に辛うじて置かれているものだとは、自覚している。
どちらかが動くのを、お互いが待っている状態なのかもしれない。
いや、どちらかと言えば、動こうとする浜田をオレの態度が踏みとどまらせているのかもしれない。
だから、浜田は時々、今みたいに冗談とも本気とも取って良い言葉を投げてくる。
どっちの意味に取っても良いんだよと無言で示して見せて、実際オレがどっちの意味で取ったとしても、きっと浜田はオレの意を汲んで受け入れる。
だからオレはいつもその言葉を、きっちり冗談だと言う態度で受け取る。
そんなオレに、浜田はただ、笑う。
「これ持って来る時はどうしたの?」
「ん?田島と三橋が手伝ってくれた」
「田島たちは?」
「パン頼んだ」
「あ〜、なるほどね」
昼の購買は戦争だ。
家から持ってきた弁当は昼休みを待たず既に空っぽになっていたから、ヤキソバパンとメロンパンゲットの指令を託して戦場には田島を送り込んだ。
あんな人が殺到する場所に三橋を送り込んだら阿部が煩いから、三橋は大人しくクラスで机の並べ替えと席取り。
人体模型を一人で運ぶ苦労なんて、昼のパンやゆっくり昼飯を食べられる場所と並べて天秤にかければ、当然昼飯の方が圧倒的に比重が重いのだ。
「野球部朝から練習してんだもんな。弁当じゃやっぱ足んねぇか」
「まあな」
ようやく運んだ骸骨を準備室の隅に立たせると、浜田はずっと骸骨を支えていた腕をグルグルと回した。
「頑張ってるもんね、泉も。もうじき夏大はじまるな」
「うん」
遠くから昼休みの喧騒が聞こえるけれど、特別教室が並ぶこの辺りはとても静かで。
ポツリと零れた言葉は、浜田の耳に止まった。
「もう野球、やんねぇの?」
「え?」
「野球部、入れば良いのに」
あぁ、しまった。
言ってしまった。
思った時にはもう遅かった。
入学してからこれまで必死で飲み込んできた言葉が思わず漏れて自分でぎょっとした。
そんなオレの目の前で、一瞬きょとんと目を見開いて、浜田はふにゃりと笑った。
「無茶言うなよ。一年サボったんだ。体がついていかねぇよ」
「今からだって間に合うだろ?」
「無理無理。オレ根性無しだし」
そう言ってぷらぷらと手を振って笑う姿に、思わず泣きたくなった。
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冒頭部分ではありませんが、一応ストーリーの導入部分です。
多分サイトでも同人誌でも、慣れ初めを書くのは最初で最後と思われます。 |
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