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たとえば、好きな人の気持ちを知ってるとして、告白できる奴ってどのくらい居るだろう。
なにに対しても一生懸命、不器用なくせに頑固で、これというものにはトコトン固執して。
コレが欲しいんだと駄々をこねる子供みたいに、手にするまで絶対に諦めない。
そんな奴が相手だったら?
中庭に沿う渡り廊下を歩いていて、ふと聞きなれた声に足を止めた。
見ればオレにとっては至極面白くない光景。
明らかに人目を避けるようにして瀬の低い木の陰に立つその姿に、いっそ大声で名前を呼んでやろうかなどと大人気ない気分にもなる。
けれど、オレが声を発する前に、珍しく毅然とした口調で木の向こうの三橋が再び言葉を漏らした。
「オレ、野球だけ やってたい から、他のこと は、無理」
三橋の言葉だけ聞けば、まさかコレが女の子からの告白に対する言葉だとは誰も気付かないだろう。
実際オレだって、目の前で俯いた女子の姿を眼にしなければ、掃除当番を断ってるとか、文化祭の実行委員を辞退してるとか、そんな風にしか思わなかっただろう。
そのくらい、目の前に相手の姿を想像できない無機質な言葉だ。
三橋らしいといえば、この上なく三橋らしい。
他に言い方ってもんもあるだろうに。
そういうところでも言葉を選んだり濁したり出来ないのは、きっと長所と捉えて良いんだろうな。
ともかく、そんな一場面を目にして、思わず溜息と共にオレの口から漏れた言葉は一言。
「だよなぁ……」
三橋の頭の中には、ホントに「もっと速い球投げたい」とか「もっとアウトが取れる投手になりたい」とか、そんなんしかないんだ。
そう思うと、捕手としては、嬉しい。
けれど、オレとしては、少しだけ胸の隅がキリリと引っかかれたような気分になる。
結局、あれだ。
他の奴がフラレるシーンを見て、同時にオレもフラレた訳だ。
だからと言ってオレが物凄いダメージを食らったかといえば、そういう訳でもないのだ、実際。
だって、三橋が言う「野球だけ」の中に、間違いなくオレは居る。
三橋が一番大事だと思い描くものの中に、間違いなくオレの姿も描かれている。
三橋がなにを置いても守りたいと固執する場所の一番近くに、オレは居るのだ。
こんな贅沢は無いと思う。
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冒頭部分です。
自分的テーマは『支離滅裂な阿部』です。
三橋の気持ちが野球以外に向くのを「待つ」と言いつつせっかちな阿部の話。
表紙は今回黒一色アナログ紙で入稿したので下のサンプルとはちょっと色見が違うかもです。
もうちょっとぼやっとした色になるかと。
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