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ドサッ――と、派手な音を立てて浜田の机に置かれたのは、パンパンに膨れ上がった大きなスポーツバッグで。
そのバッグ越しに、「爽やかな朝」にはおおよそ似つかわしくない、泉の顰めっ面が覗いていた。
「おはよう泉」
「おう」
「どうしたのその荷物?」
「悪いけど、一週間ばかり浜田んち泊めてくんねぇ?」
「へ?」
机の上の荷物にドカッと肘を突きながら、泉が顰めた顔をいよいよくしゃりと潰した。
「兄貴がインフルエンザにかかりやがった」
「あぁ……、なるほど」
だから家族にインフルエンザをうつされる前に、菌の届かない場所に退避しようということなのだろう。
浜田にしてみれば、泉がインフルエンザをうつされて寝込んでしまったら、それはそれで看病とかこつけて見舞いに行くとか甲斐甲斐しく介抱してやるとか、考えるだけで美味しいオプションが無いわけでもないのだけれど――、それよりもやはり、可愛い人が熱にウンウン唸されている姿は可哀想で見ていられないに違いない。
ならばやっぱり、いつも通りの元気な泉で居てくれることが一番なわけだが、泉の関心ごとはといえば、自分がうつされるかどうかと言うことよりも、更にその先の話のようだ。
「三橋と田島にうつしでもしたら最悪だからな」
そんな風に面倒臭そうに吐き捨てる泉に、浜田はもう一度なるほど――と苦笑を漏らした。
明日から期末試験前の休みに入り部活は無いが、オフシーズンの野球部にとって、練習に出られなくなることよりも重大な問題は、試験が受けられなくなると言うことだ。
練習試合さえなければ一番バッターとエースと四番バッターとが揃いも揃って休んだとしても、せいぜい本人達が暇だとかじっとしていられないとか喚くのを宥めるのが面倒なだけで、部活に与える影響は然程無いに違いない。
それよりも、試験が受けられずに赤点を取った三橋と田島が当分試合に出られないと言った状況が困るわけだし、もし病気を理由に監督の温情で追試をクリアすれば試合に出してもらえることになったとしても、果たして問題児二人が更に他人よりも伸びた試験期間に大人しく勉強してくれるだろうかと考えると、到底無理としか思えない。
そもそも、インフルエンザは熱が引いた後も、他人に感染する期間は一週間前後続くわけで、体が動くようになったチビッ子達が一週間も大人しくしていてくれるなんて、それこそ奇跡に近い。
「そりゃまあ、困るな」
思わずからかい混じりの笑みを漏らしながら浜田がそう言うと、泉は至極真面目な顔でコクリと頷いた。
「な?病気からは逃げるに限るだろ?っつうわけで、しばらく泊めて」
「そりゃもちろん、良いよ」
「さんきゅ」
ようやくほっと息を吐いた泉が、大きな荷物を抱えて自分の席に戻る後姿を見送って、浜田は小さくほくそ笑んだ。
看病なんて美味しいオプションはなくても、それ以上に美味しくて楽しい試験期間になりそうだ。
日頃から泉は、ミーティング日の前日とか、休みの日とか、なにかと泊まりに来てはくれるけれど、ソレはどう言っても結局は「お泊まり」だ。
けれど、これから始まる一週間は、「同居」もしくは「同棲」と言っても過言ではないはずで、それだけでなんだか擽ったいような楽しさとちょっとだけ疚しいドキドキに、ついつい頬が緩む。
そんな気の早い妄想に気をよくして想い人に視線をやると、見られているのが分かったかのようなタイミングで泉が振り返った。
緩みっぱなしの浜田の顔に嫌そうに眉をきゅっと寄せて、口の動きだけで小さく「ばーか」と言葉を投げる。
思わず緩んだ笑みを引っ込めた浜田を更にジロッと睨み返して、けれど、前に向き直るほんの一瞬、泉ははらりと柔らかい笑みを零した。
「(あ……)」
一瞬だけの笑顔に、思わず息を呑んだ。
たぶん、泉も分かっているのだ。
きっかけは病気対策だとしても、初めての共同生活はきっととても楽しいものになる。
付き合い始めてそれなりに日は経っているのに、なかなか前に進まない関係も、もしかすると少しは変わるのかもしれない。
そんな淡い期待を胸に抱いたとしても、許されるはずだ。
――とかなんとか、ふわふわと浮ついた気持ちで居られたのは始めだけで。
好きな人と共に過ごすと言うことに対する自分の認識が、かなり甘かったのだと浜田が気付いたのは、夜になってだった。
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冒頭部分です。
初めて三人称で書いたのでなんか変な感じ。
初めての三人称だったので、学校と浜田の部屋に自分の中でセクションを分けて、部屋での部分は作品の雰囲気も少しだけいつもと変えて書いています。(のつもり;)
微シリアス風味。 |
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